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「それは。…そうなんだけど。まぁ、うるさいとこに住んでたらこんな文句言えないよね。でもなんていうか…、時々心細くなる。あまりにも生活感がなくて。…もしかして、いつの間にかこの建物もう誰も住んでなくて。わたし一人だったらどうしよう、とか」
背中がふっと温かくなった。一瞬そっと手のひらを添えられた、とあとで気づく。
「今は、僕がいるよ」
「…そだね」
ありがとう、と口の中で小さく呟く。それ以外どんな反応を返せばいいのかわからないし。
鍵を取り出し、部屋のドアを開けようとしたところで彼が口を開く。その声の調子にちょっと異様なものを感じて振り向いた。
「眞名実。…もしかして、結婚してる、とか?」
「ええ?まさか」
何言ってんの、と呆れて振り向いてその目線が釘付けになってるものにようやく気づく。…ああ。
「そっか、説明してなかったね。うち、母親が再婚したんだ。大学に入るタイミングだったからその時わたしも苗字変えたんだよ。今は滝沢って言うんだ」
「そうなんだ」
一応頷いたけど、でもまだ釈然としない様子だ。促されて部屋に上がりながら尚も言い募る。
「それは、以降は滝沢って名乗ってるってこと?通称を使ったりしないで」
「そうだよ。だから大学の友達とか今の会社ではみんな、そっちで呼ぶよ」
「でも。…高校の奴から君について調べてくれって依頼された時は丘本眞名実、って言われたよ。頼んだのは君の友達だろ。似鳥さんとか、その裏に君のあの彼とか」
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