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「ああ。…高校の友達には言ってないもん、いちいち」
彼にソファを勧めて部屋の暖房のスイッチを入れ、キッチンへと向かう。何作ろうかな。相変わらず肉でも魚でも野菜でも何でもござれだけど。物によっては消費しきれなくて例によって冷凍庫に放り込んであるし。
神野くんはソファに掛けずに後から一緒にキッチンに入ってきて更に言葉を重ねる。
「いちいち、って。本名が変わったんだろ?大事なことじゃないの?」
「うーん、きっかけというか必要があれば。その時説明すればいいやと思ってたんだけどね」
冷蔵庫を開けて中をしげしげと覗き込んで考え込み、上の空で答える。
「意外に話す機会がなくて。パスポート見せるとか免許証見せるとか。あ、免許は持ってないけど。中高と大学以降の知り合いも被んないしね。だから何となくそのままになっちゃった。思ったほど困ることないんだよね」
背中を向けたまま冷蔵庫をごそごそ探るわたしの後ろでしばし黙り込み、神野くんはようやく口を開いた。
「それは、つまり。高松や上林や長崎たちも知らないってこと?…君のあの彼は?」
「ああ。…言ってないから、みんな」
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