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「わたしの生活費や学費も一人で稼がなきゃだったし。その上付き合ってる人には就学前の子どもがいて、まあ今はわたしの妹ってことになるけど。もう小学校の、六年生かな。一度会ったよ、ちゃんと顔合わせして。大人しい可愛い子だった。当時は一年生だったから…。まだいっぱい手がかかったんだ。その世話も引き受けてたんだから。わたしなんか自分でもう何でもできたんだし。…仕方なかったんだよ、こっちに顔出してる余裕なんかなかった。だから…、うちのこと。変な家だって思わないで」
自分の口から溢れた小さな懇願に驚く。そうか。
今まで誰にも家の事情は話さなかった。うちなんか別に普通なのに。こんな家、きっと他にもいくらでもあるはず。わたしは不幸なんかじゃない。もっと大変な問題を抱えた家庭はずっといっぱいあるでしょう?
そう思ってたけどやっぱり不安だった。何故なら知ってる限りでは高校生で親が家に帰ってこない家はわたしの周りではほとんどない。みんなそんな話はいちいちしないからじゃないかなとも思うけど。でも、普通に話してる内容から察するにみんなごく普通に両親が揃って口うるさくいろいろ介入される話を当たり前のようにしてて、そのことを何とも思ってない風だった。
知ってる限りで似たような家庭はリュウだけ。でも彼だってちゃんとホームに行けばおばあちゃんには会えるし。商店街の方たちも彼のことを気にかけて何くれとなく世話を焼いてる。そう思うと。
もしかしたらわたしの境遇は他人から同情されるようなものなのかも。そのことを知るのが恐ろしかった。だから今まで誰にも打ち明けずにきた。大好きなリュウにさえも。
だって。こんな事情を知ったら、きっとみんな。
「…優しいお母さんだね」
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