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神野くんが柔らかい口調で呟いた。そっちに目を向けられない。
視界の端で、彼がこっちに顔を向けずに冷蔵庫の中身を見ながら静かに呟いてるのがわかる。
「こんなにいっぱい、食べきれないくらい詰め込んで。きっとこれがお母さんの君に対するありったけの気持ちなんだね。社会人になって、君に収入があるようになったら終わりとかじゃなく、…今でもこんなに眞名実のことを心配してるんだな。きっと君の顔を直接見にくる勇気がなかなか出せないでいるんだ。でも、いつも今でも君のこと、考えてるんだと思うよ」
「…うん」
わたしは冷蔵庫のドアを閉め、立ち上がって背中を向けた。違うこと考えなきゃ。鶏肉の下拵えもしなくちゃだし。それに、今その台詞についてあんまり正面から向き合ったら。
涙がこぼれそうだ。
そう、わたしは不安だった。母親の話をしたら自分が同情される。それよりも更に、もしかしたらうちの母を非難する人がいるかもしれないってことを危惧してた。
高校生の娘を一人で置き去りにして酷い母親だとか。娘に愛情がないんじゃないかとか。非常識だとかあり得ないとか。そんな風に言われてしまったら。
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