第18章 結婚するよ

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うちの母が浮かばれない。向こうの家族と暮らしてても、大学生になって更に社会人になった娘の部屋の冷蔵庫を満たすためにいそいそと通ってくる母。きっと彼女だって自分が非常識で愛情が足りないって言われそうなことをしてたってことは承知してる。だから今でもそれを止めずにはいられないでいるんだろう。 それでもそんなの贖罪にならないとか。それで世話した気になってとか、他人に言われちゃうのかな。 それはわたしには耐えがたいことだった。だって、これだけが唯一、わたしに対する彼女の愛情の表れ、精一杯の気持ちの証だったから。これを誰かに否定されるくらいなら。 誰にもこの話をしたりしないで、自分一人の胸の内に抱えている方がいい。そう考えて今まで、ずっと。 わたしは電子レンジに固く凍りついた鶏肉を入れて、解凍ボタンを押した。自動だとどうしてもところどころ偏りができてしまう。かちかちに凍ったままの場所と、少し火が入ったように熱くなるところと。だから目が離せない。一応こうして見ておかないと。 そう思ってレンジの前にじっと目を据える。振り向くわけにはいかない、けど。 小さな声でレンジが鳴る喧しい音に紛れるように呟いた。 「…ありがと、神野くん」 どうしてこの人に話したのか自分でもよくわからない。でも、どっかでこういう反応が返ってくるってわたしは知ってたのかもしれないな。ってその時思った。     
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