第七十九章『帝国の崩壊 マフムード』

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それが故に、南東王国(アラブ)の国内で魔結晶の鉱山が発見され、しかも、とてつもなく大きな魔石が眠ると噂されると、その力を是非手に入れたいと思わせる原動力になった。それくらいアーネットの存在は南東王国(アラブ)にとっての脅威になっていた。 マフムードが巨大魔結晶に立ち向かったのは、そういった思惑があったからだ。彼とて命は惜しい。だが巨大な力を欲するのは呪術を志す者として当然であり、それにカリフの期待や、宿敵となったアーネットの存在があれば、命に代えても手に入れたいと思うのは当然の結果といえた。 だからこそ、スイスでの戦いは帝国とアーネットの存在を完膚なきまでに潰すため、周到に準備されたものだった。そしてそれはアーネットをあと一歩というところまで追い詰めた。それなのに、最後でまた彼女のあり得ない力により、巨大魔結晶の力さえも彼女は跳ね返えされた。 全身火傷に包まれたマフムードの姿をみたカリフは、身の毛もよだつ感覚を覚えた。それが帝国の魔女のもたらしたものであることは、鮮明な記憶として脳裏に刻みつけられた。 「あの巨大魔結晶の力をもてば、もう北人を恐れることも、いや世界を征服することさえ容易い」 そう喜悦して喜んだ、その頬の緩みも消えきらぬうちに、横から冷や水を浴びせられたような感覚だった。いや冷や水程度ではない、洪水にでもあったかのような衝撃だった。     
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