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第一章「出生」
18世紀の英国。欧州100年戦争の後期、人々は疲弊し、夢も希望ももてない時代になっている。そして、ここエジンバラは、併合によって首都の座を奪われ、人口だけが増え続けたおかげで、過密化が進み衛生が行き届いていない。建物は上にも下にも伸びていき、貧困層は地下部屋に押し込まれた。光も差し込まず、下水から漏れ出した汚水が染み出し、湿った空気と悪臭、飢えで病気が蔓延していた。
◇◇◇
「オギャー」
と元気な声で生まれた女の子は、産湯にいれられると心地善さげに
「ウフフ、キャハハ」
とニッコリ笑った。その無邪気な笑い声は心地よく人々の耳に届いた。
肌はわずかにピンクがかり、大きな瞳は青く澄み、真っ白に輝く銀髪が神々しいばかりの存在感をはなっている。
「天使だ、こりゃ天使だよこの子は」
産婆はそう言うと、母の枕元に赤子をそっと置いた。
その小さな手をとり、じっと見つめる母に、赤子は精いっぱいの笑顔を返すのだった。虹色に輝くような、幸せな空気があたりを包んだ。埃の舞うカピ臭い紡績工場の2階でアーネットは産まれた。
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