第一章「出生」

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母は紡績工で機織りをしていた。女工はもって1年、すぐにその辛さに耐え兼ね帰郷したり、男を作って出て行ったりしてしまう。そんな時代に、彼女は真面目に7年間、休むことなく毎日仕事をこなし、しかもその織り上げた布は均一に編み込まれ、とても質の高いものだった。そんな日頃の働きがあったからこそ、工場長も周囲も彼女の出産を快く受け入れ、十分な休養をとらしてくれた。他の女工は彼女の妊娠を聞くと一緒になって喜んでくれたが、同時に 「結婚もせず、真面目に毎日機織りをしてる彼女がいつ子作りしたんだろうね?」 と下世話な話で盛り上がっていた、彼女はそれについて語ろうとはしなかった。そんな噂話が霞むほど、アーネットの可愛さは日に日に増していき、3歳になる彼女は背中に羽が生えてるんじゃないかと疑いたくなるほどの、天使だった。そんな彼女に、母は早くも働くことを教える。梳毛(そもう)といって、羊毛などから繊維をより分け、縮れを伸ばし、平行揃える仕事だ。紡績工場での一番最初の工程で、それは奴隷やそれに近い身分の捨て子がさせられる仕事だっただが、まだ手先が器用に動かせない彼女はそれでも一生懸命に仕事をこなそうとした。そんな姿を不憫に思った周囲が、いくらなんでもまだ早すぎるのではと母親にいうのだが、 「ううん、これはあの子のためだから」 といって時々愚図るアーネットにも、優しく厳しく教えこんだ。あの子は見た目がいいから皆に甘えさせてもらえるけど、それに甘えていたら将来不幸になる。あの子は自分一人で生きていける子にならなくてはいけないの、と母親は強く戒めるのだった。     
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