第一章「出生」

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2年後、そんな母親の予言どおりに悪い予感は的中してしまう。母親を含めこの紡績女工の半数が結核にかかってしまう。当時の紡績工では結核が流行ることがよくあった。長く務める母親には、いつか自分も結核にかかるだろうと予期していたのだ。死を予感した母親はアーネットを枕元に呼び優しく抱きしめると、引き出しから取り出したペンダントを首にかけ、重要な話だからよく聞くようにと諭す 「アーネット、このペンダントはあなたのお守り。これがあなたに降りかかる災いを振り払ってくれるでしょう。だからこれは常に首からぶら下げて肌身離さず大切にするのです。そしてここが一番重要、これは人によってはとても高価に見えるものです、決して信用できる人以外に見せてはなりません。普通の人なら騙してこれを奪おうとするでしょう」 と母親は強く念を押した。 「もし、どうしても自分自身の力ではどうしようもなくなった時は、この宝石に祈り、信頼できる人にこれを見せて助力を乞うのです」 もう母親は涙声になっていた。娘を抱けるのはこれで最後かもしれない。そう感じられたからだ。だがアーネットには母親の悲しみの感情しか理解できない。どうして母が泣いているのかわからなかった。 「泣かないで、お母様。どうしてそんなに涙を流して悲しむの? 私は何でも言うことを聞くから、どうか私を残してどこかに行ったりしないで」 と母親の涙を手で拭いて懇願する。その言葉に母親もうんうんとうなづき 「どこにもいったりしないよ。いつでも私はあなと一緒にいるからね」 と涙を隠して優しく微笑むのだった。     
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