第七十九章『帝国の崩壊 マフムード』

6/10
640人が本棚に入れています
本棚に追加
/1705ページ
だが、彼女の存在は戦闘を繰り返すたび大きくなり、彼女の力は南東王国(アラブ)の最高司祭であるマフムードの予想をも超えるものになってきた。北の技術力に対抗する手段が南の呪術による力だが、それなのに、彼女の力はマフムードが手を焼くほどに強力で、底知れない力を秘めていた。 あの娘は帝国の王女である。ということは、本来、北人が使うことができない魔法を可能にしたのは、それを操る技術を帝国が開発したからではないか? という憶測がされた。南東王国(アラブ)にとってそれは、自分達の優位が脅かされる、絶望的な状況といえた。 だが、その後の戦闘で帝国兵は呪術による攻撃に無力で、驚き逃げ出している。つまりアーネットの魔力は帝国の技術力の結果ではないことがわかった。このことは南東王国(アラブ)のカリフや呪術師にとってはほっと胸を撫でおろすことだった。マフムードもその一人だった。 それなのに、あの娘の存在だけは依然として大きくなり続けた。そのことはマフムードの知識や経験をもってしても理解できなかった。そして彼女は王族の一員だった。あれだけの力を持つ者なら、当然、軍を率いる立場になるし、 それはやがて王位につき、南東王国(アラブ)と対抗する日がくることを予感させた。だから彼女の力は無視することができず、なんとかその芽を摘もうと試みてきた。だがその度に逆に彼女の力は大きくなってきている。     
/1705ページ

最初のコメントを投稿しよう!