邂逅

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頑張って頑張って、やっとの思いで手に入れたマルオにとっての平和な日々。この体形になってから麻未に無理強いされることも、詩美に文句を言われることもなくなった。マルオは今の生活に概ね満足している。高校でもこの体形を維持して平穏無事な生活を送る予定でいるのだ。だから、水田のアドバイスは余計なお世話なのである。 それに今のマルオには吹奏楽部の活動が最優先で最重要事項だ。他のことに気持ちや時間を割いている暇はない。 とは言っても、実のところマルオは特別音楽が好きだったわけではない。流行りのJ-POPくらいは聞いたりもするけど、吹奏楽部が演奏するような曲ははっきり言って興味なんてなかったし、全然知らなかった。楽器だって、授業で無理矢理やらされた鍵盤ハーモニカやリコーダーくらいしか触ったこともない。なのにそんなマルオが今では部活動に夢中だ。 きっかけは入学式だった。 マルオがこれから始まる高校生活への期待と不安に少し緊張しながら体育館に足を踏み入れた時、その耳に届いたのが吹奏楽部の奏でる音楽だった。 それまでは入学式や卒業式の入場などの時に流れる曲は音楽の先生がピアノ演奏をするものだと思っていた。というか、そもそもそれを気にしたことすらなかった。 マルオはその音の迫力に一瞬釘付けになり思わず足を止めてしまい、後ろを歩いていた生徒とぶつかる寸前だった。「うおおっと!」という焦った声が聞こえて我に返り、「ごめん」と小さく謝って、慌ててまた足を動かした。ちなみに、この時後ろを歩いていてぶつかりそうになったのが水田だった。 大人数からなる楽団の生演奏なんて耳にしたのは生まれて初めてだったから、マルオはプロの楽団なのかと思ったほどで、プロを呼ぶなんて高校って凄いんだなぁと見当違いな感心をした。でもマルオにとっては、それこそ『文明開化の音』と言ってもいいものだった。 式の中で進行役の先生から吹奏楽部による演奏だと紹介があり、なるほどよくよく見ればみんなこの学校の制服を着ていた。プロじゃないのにあんな演奏ができるなんて凄いと、マルオはまた一頻り感心したのだった。
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