邂逅

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そもそも世理がマルオの面倒しか見たくないと譲らなかったのは、あの部活紹介でのことがあったからだ。あの時のマルオは、世理のソロ演奏の最初こそ目を見開いていたけれど、後半は目を閉じうっとりとした表情で聞いていた。そして演奏後のスタンディングオベーション。きっとマルオは音だけを楽しんでいた。 世理はマルオを可愛い後輩だと思う。全くの初心者だからサックスはまだまだこれからとしか言えないが、それでもとにかく一所懸命なところが微笑ましい。それに何よりマルオは世理の見てくれには興味がないように見える。何故ならマルオはいつも、世理自身のことを、というよりも世理の音を褒めるから。世理としてはそこが特に気に入っている。マルオという後輩は、今の一番のお気に入りで興味があるのだ。 だからマルオが本当に入部してサックスを希望した時には、世理には珍しく自分から関わりたいと思った。新入部員の大多数がサックスを希望した中で、全くの初心者のマルオをサックス担当にねじ込んだのも世理だった。マルオにサックスを教えること以外は新入部員には関わらないと、そう宣言したのである。とんだ我が儘だが、周りからはまぁ仕方がないと許してもらった。 そんな経緯でまんまとマルオ専属の指導者になった世理だが、マルオは予想以上に実に真面目に一所懸命にサックスと向き合っている。その目はサックスを映すばかりで殆ど世理の顔など見ない。部活以外の場で会ったら世理だとはわからないんじゃないだろうかと疑いたくなるほどだ。でも世理のアドバイスには真剣に耳を傾ける。真摯な姿に世理の指導にも熱が入る。 今の世理にはマルオと練習する時間が心休まる楽しいひと時なのだった。
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