共鳴

5/7
48人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
マルオの話を聞き終えた世理は右手を、俯いたままのマルオの頭の上に乗せ、優しくぽんぽんと軽く叩いた。それから目線をマルオに合わせるように覗き込んだ。 「丸岡は頑張ったんだね」 マルオの苦い思い出話しを聞きながら、世理は不器用に一所懸命に努力をしていたのであろうマルオの姿を想像し、それを微笑ましいとすら感じていた。マルオ本人からしたら辛いことだったのだろうけれど。 「丸岡は可愛いな」 思わず出てしまった世理の言葉にマルオは脊髄反射的に反発してしまった。深くうなだれていた顔をサッと上げ、キッと睨みつけるような視線を世理に向ける。そして珍しく語気を荒らげる。 「先輩、俺の話、聞いてくれてましたよね? 可愛いとかやめてください!!」 思わぬマルオの剣幕に驚いた世理は、瞬きも忘れてマルオの顔を見つめた。 「俺は、可愛くなんかない!!可愛いなんて言われたくない!!」 頑なに言い張るマルオに世理は少し困惑しながら言う。 「丸岡は…可愛いって言われることが、そんなに嫌なのか?」 噛みつかんばかりに食ってかかったマルオだったが、あくまでも優しい口調のまま聞く世理に対して、しまったという思いが沸き上がり声が小さくなっていく。 「だって…だって、俺は、男だし…」 そんなマルオに、世理は悪かったと謝る。 「そっか、ごめんな。俺もさ、ぶっちゃけ外見だけで判断されることは多いから丸岡の気持ちはわかるつもりなんだけど、悪かったな」 世理は優しい声で言葉を続ける。 「でもさ、怒らないで欲しいんだけど、俺から見たら丸岡はやっぱり可愛いんだよ。だってさ…」 マルオは眉間に皺を寄せて納得できないという顔をしているが、今度は口を挟まずに黙って世理の言葉を聞いている。 「丸岡はいつも頑張ってるから。俺の言うことも真剣に聞いて一所懸命練習するだろ? そんなところが可愛いと思うんだよ。後輩っていってもいろいろいるからな。素直で可愛いと思う後輩もいれば、生意気で憎たらしいヤツもいる。俺も聖人君子じゃない、普通の人間だからな。嫌だなと思うヤツだっているけどさ、そんな中で丸岡は俺から見たら、素直で可愛い後輩なんだよ。そういう『可愛い』でもダメ?」 ん? という表情の世理が、少し首を傾げながらもう一度マルオの顔を覗き込んできた。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!