意識

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水田の声に世理がそちらを見る。 「お、水田か。何? お前ら楽譜でも買いに来たの?」 「はい。まぁ、楽譜もなんすけど、楽器も自分のが欲しいと思って見に来たんすよ。でもいいなぁって思うのは高いっすねー。俺の小遣いじゃ全然足りなくて泣きそうっす」 水田が、お前は体育会系か! とツッコミたくなる言葉遣いで答える。 「まぁな。なかなか手が出ないよな」 「ホントっすよ~。先輩は自分で買ったんすか?」 「んー、俺は叔父貴からのお下がり使ってるかな」 「えー、先輩の叔父さんもサックス奏者なんすか」 「趣味程度ってやつだけどな」 二人のやり取りを、少し離れたところでぼーっと見ていたマルオに世理が視線を向けた。 「丸岡もサックス買うの?」 世理に話しかけられて、慌てて近寄った。 「いえ、俺もバイトでもしないと無理だなって思ってました」 「バイトか…」 「はい。俺も水田と一緒で、小遣い貯めたくらいじゃとても買えそうにないです。だから、すぐには無理だけど、いつかは自分のサックスが欲しいって思ってます」 「そうか」 世理はそう言った後、少し何かを考える顔をしていたが、視線をマルオに向けると 「お前ら、この後少し時間あるか?」 と聞いてきた。 その言葉に水田はハッとしたように腕時計に目をやり、時間を確認したと思ったら急にあわあわと焦り出した。 「げ! やばっ! 俺、今日家族で外食なんすよ。6時までに帰んないと置いてかれる! 飯食いっぱぐれる! それはまずい! 餓死する! 俺、帰ります! 先輩、すんません。失礼します! マルオ、またな!」 慌ただしく言い立てると水田は店から飛び出し、そのまま駅の方へと脱兎の如く走り去った。
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