意識

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世理の叔父がオーナーを務めるジャズ喫茶は楽器店とは駅を挟んで反対側にあるらしい。15分ほどの道のりを二人並んで歩いた。 その間もマルオの鼓動はドキドキと煩かった。マルオは本格的に己の体調の変化を訝しく思ったけれど、それを世理に言おうとは思わなかったし、悟られてもいけないと思った。だって、言ったら世理はまず間違いなく心配してくれるだろう。そうしたら叔父さんのお店に行く話はなくなってしまう可能性が高い。それは嫌だと思う気持ちの方が強かった。マルオは世理の叔父さんのお店に行ってみたいと思ったし、何より、久しぶりに会えた世理と、もっと一緒にいたいと思ったから。 ドキドキと騒ぐ胸を感じながら世理の隣を歩く。気のせいか少し息苦しさもあるようだけれど、マルオはそれらに気を取られないように、気のせいだ、大丈夫だと自分に言い聞かせた。そして意識を逸らそうと視線を彷徨わせると、さっき自分の肩に置かれていた世理の手が目に入った。 (先輩の指、長くて綺麗だな。サックスを演奏してる時の動きも滑らかだし、俺もあんな指だったら良かったのに) 思わず自分の手を見た。体の大きさに比例してか、あまり大きくはない手だ。指も長くない。はぁ~とため息が溢れてしまった。
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