意識

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五階建ての小ぢんまりとした雑居ビルの横にある階段を降りたところにその店はあった。渋い焦茶色をした木製の扉には『subtone』と書かれている。これが店名なのだろう。その扉を開けると、カランというカウベルの音がした。その後、店内に流れているのであろう音楽が微かに漏れてくる。 世理に続いて店内に足を踏み入れたマルオはキョロキョロと見回す。さほど広くはない店の一番奥に置かれたグランドピアノが存在感を放っていた。 「ハル叔父さん、こんにちは」 世理がカウンターの中にいる男に声をかけた。 「お、世理か、いらっしゃい」 その男が顔を上げてこちらを見る。シブいという表現がピッタリくる風貌だ。口の周りには立派な髭も蓄えている。 「ん? 今日は友達も一緒なのか?」 声までシブい。 「うん、吹奏楽部の後輩」 マルオはアタフタと頭を下げる。 「丸岡郁実です。城山先輩にはいつもお世話になってます」 「へぇ~、世理がお世話、ね。ってことは君もサックス?」 「そう。俺が一から仕込んだ特別な後輩」 「そいつは可哀想にな」 「ひでぇな」 「あはは、冗談冗談。お前に教えたのは俺だからな。ってことはだ、つまりは俺が教えたようなもんだ」 そう言って男はニヤリと笑い、マルオに向かって 「俺はこの店のマスターで世理の叔父、こいつの母親の弟の岡本(おかもと)春央(はるお)っての。仲のいいヤツらはハルって呼んでる。よろしくね」
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