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気さくに声をかけてくれたマスターにマルオは「こちらこそよろしくお願いします」と、ペコリと頭を下げた。
「世理もいつもは俺のことを叔父さんなんて呼ばないんだぜ」
マスターはマルオに向かってウィンクをしながらそう言った。
「だから君、郁実君もハルでいいよ。まぁ、呼びにくかったらマスターでもいいしな。好きに呼んでくれ」
「はい」
「ハルさん、コーヒーちょうだい」
「そうそう、いつもはこんな感じ。待ってろ。今 美味いヤツ淹れてやる。郁実君もコーヒーでいい?」
「あ、はい」
カウンターに設えられた背の高いスツールに世理と二人並んで腰掛けて、目の前で作業するマスターを眺める。
サイフォンでコーヒーを淹れる様子をマルオは初めて見た。それはまるで魔法のようだった。最初は理科の実験でも始まるのかと思った。ガラスの器具やアルコールランプを使って、グツグツと煮たりかき混ぜたり、お湯が上に上がったかと思ったら、火を消すと下にコーヒーになって落ちてくるとか…。物語に登場する魔女が毒薬でも作っているみたいだなと、ちょっと不謹慎な想像までしてしまった。
マスターは丁寧に淹れた二人分のコーヒーを、世理とマルオの前に置いてくれた。馥郁とした香りが漂う。
マルオは大きく香りを吸い込んだ。そして心の中で、(こんなにいい香りがする飲み物を魔女の毒薬なんて思ってごめんなさい)と謝罪した。
その隣で世理は、マスターに「サンキュー」とひとこと言うと早速コーヒーに口をつけ、そして「うん、今日も美味いね」と言っている。
マルオも「ありがとうございます」とお礼を言ったもののどうしようと一瞬躊躇したが、世理に倣ってそのまま一口飲んでみる。
(げ、苦い)
香りはすごくいいけどマルオには苦い。自ずと眉間に皺がよる。それを見られていたのだろう、世理が砂糖とミルクをマルオの側に引き寄せた。
「無理しないで入れたら?」
マルオは砂糖とミルクをたっぷり入れてコーヒーを飲んだ。
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