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それから世理チョイスで少しずつ何枚かのレコードを聞いたところでマスターから声がかかった。
「世理、郁実君。こっち来て、これ食べな」
見るとカウンターの上に、出来立てでほわほわと湯気の上がるオムライスがある。
「お! ハルさんサンキュー。丸岡、あったかいうちに食べようぜ」
世理と共にカウンターに戻り、また背の高いスツールに座った。
そう、スツールに座った。座ったはいいが…
「あの、俺…」
オムライスを前に言葉に詰まるマルオに世理が言う。
「遠慮すんな。ここに置かれた以上、俺たちが食わないと処分することになる。それは勿体ないだろ?」
けれど、ハッとした顔で続けた。
「あ! まさかオムライス嫌いか?」
マルオは慌てる。
「いえ! そんな! とんでもない! 大好きです、オムライス…」
「じゃ、食えよ」
「そうそう。食べてもらったら俺も嬉しい」
と、マスターまでが笑顔で言ってくるので、これ以上遠慮するのは逆に申し訳ないと思い、マルオは有り難く頂くことにした。
「はい。いただきます」
綺麗な黄色の玉子で包まれたオムライスの上に鮮やかな赤いトマトソースがかかっていて、実に美味しそうだ。見た途端、お腹が小さくキュルルと反応し、マルオは自分が空腹だったことに気がついた。そして、その音を世理たちに聞かれたかもしれないと思うと恥ずかしくなった。世理は気がついたのかついていないのか「いただきま~す♪」と嬉しそうにオムライスを頬張っていたので、マルオももう一度「いただきます」と手を合わせてからオムライスをスプーンで掬って口に入れた。
「美味しい」
マルオが思わず口にすると隣の世理が
「だろ? ハルさんのオムライスは絶品なんだよ」
と、世理が作ったわけでもないのに、まるで自分の手柄のようにドヤ顔で言ってくる。その態度や表情が、いつもの世理より幼い感じがして、マルオは(なんだか先輩可愛いな)などと思った。
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