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結局、世理の言った通りマスターにすっかりご馳走になってしまったが、「世理の弟子なら俺の弟子も同然だからな。師匠の奢りだ」と胸を張ったマスターに「なんてな。ま、とにかく気にするな」とまたウインクされてはマルオとしては「ご馳走さまでした」と言うしかなかった。
家に帰ってからも今日の思いがけない出来事の数々を、マルオにとっては初めての経験ばかりだったいろいろなことを思い出してはほぅっと息をつく。そのどれもがマルオを幸せな気持ちにさせた。
ハルさんのお店、チャーリー・パーカーのレコード、サイフォンで淹れられたコーヒー、オムライス…そして、世理のこと。
世理の手…。
それを思い出した時には何故か頬が熱くなった。
(先輩の手、大きくて温かくて、指が長くて、サックスを吹く時も綺麗で滑らかに動くんだよな…。いいなぁ)
その手に包まれた自分の手を見る。
自分の手がなんだかとても大事なものに思えてくる。
(先輩…)
マルオは世理に包まれた手を、反対の手で世理がしてくれたようにそっと包み胸に引き寄せた。胸がドキドキしている。まただ。また動悸が激しくなってきた。
ちょっと怖くなったマルオは、自分はどこが悪いのだろうと考える。何の病気なんだろう、どうなると動悸が激しくなるのか…。
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