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「丸岡!」
教室の入り口からマルオを呼ぶ声が聞こえてきた。
その声にマルオはハッと顔を上げてそちらを見ると、そこには世理がいて、マルオにおいでおいでと手招きしていた。教室にいる女子たちが「キャー! 城山先輩!」「なんで城山先輩が?」と騒ついている。
世理は先ほどのマルオの態度は気にしていないのか、至っていつも通りだ。その眼差しは優しい色を湛えている。
さすがにこれをシカトすることはできない。マルオは女子たちの声をうるさいなと思いながら、緩慢な動作で椅子から立ち上がると世理のところまで歩いて行った。
「丸岡、手、出して」
世理の言葉に素直に右手を差し出すと、そこにチョココロネが載せられた。
「左手も出して」
またまた素直に左手を出すとそこには焼きそばパンが。
マルオはキョトンと世理を見上げる。
「丸岡、さっきパン買いに来てたんだろ? なのに買えなかったみたいだったから。どんなのがいいのかわからなくて適当に選んできたんだけど、よかったらそれ、食べて」
「…先輩……」
「あれ? いらなかった? いらないなら俺が引き取るけど」
「え、あ、いえ、いただきます。あ! お金…」
「ああ、いいよ、これくらい。俺の奢り」
「え…」
「昼メシ、しっかり食えよ! じゃあな!」
そう言うと世理は踵を返して戻って行った。マルオは呆然と、その背中が見えなくなるまで見送った。そして自分の席まで戻り、両手を見る。世理がわざわざマルオのために買って持ってきてくれたパンが載っていた。
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