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その日の放課後、部活を終えてバイトに向かうべく急ぎ足で学校を後にしたマルオは、校門を出たあたりで後ろから声をかけられた。
「丸岡!」
その声にビクッとして足が止まり、振り返る。
そこにはマルオに駆け寄ってくる世理の姿があった。
「…先輩」
世理はマルオに追いつき、隣に並ぶと「今からハルさんとこ?」と聞いてきた。
「はい。ちょっと部活が長引いちゃって遅くなっちゃいました」
「そっか。俺も一緒に行くわ」
そう言うとサッサと歩き出す。マルオも慌てて足の動きを再開した。
世理の少し後ろを追いかけるように歩きながら、さっき心に決めたことを実践するチャンスだと思った。さあ、パンのお礼と非礼に対する謝罪の言葉を伝えろと己を叱咤する。なのに、口から出てきた言葉は…
「先輩、遅くまで学校にいたんですね」
「ああ、一応受験生だからさ。家だとテレビとか色々誘惑があるだろ? だから図書室で勉強してたんだよ」
「そうだったんですか」
世理の言葉に相槌を打ちながらも、違う、先輩に言わなきゃいけないのはこんなことじゃないと焦る。
「あの、先輩…」
思い切って足を止めて世理に向かい声をかけた。
「ん? 何?」
世理も気づいて止まり、マルオの方を向く。マルオは思い切って切り出した。
「あの、あの…」
「うん、どうした?」
「あの、昼はパンをありがとうございました。俺、お礼も言ってなくて…すみませんでした」
「ああ、いいよ、別に。俺が勝手に持っていったんだしな。それよりちゃんと食った?」
「はい、食べました。本当にありがとうございました」
「そっか。食ったならいいんだ」
ふふっと世理は嬉しそうに微笑んだ。その顔にまたマルオはドキッとしてしまった。
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