展開

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店に戻ったマルオがピアノの方に目をやると、ピアノの前の椅子には細身の背の高そうな男性が座っている。白い綿シャツにジーンズというラフなスタイルだけど、オシャレな雰囲気が漂っている。あの人がピアニストさんなんだなとマルオは思った。 そしてピアノに凭れるように立っている女性がシンガーさんなんだろう。短めのボブに整えられた髪は真っ黒で艶々している。こちらの女性も背が高くスレンダーだ。真っ赤なTシャツにアンクル丈のスキニージーンズ。サンダルを履いた足元にも真っ赤なペディキュアが見える。おまけに唇も真っ赤なルージュで彩られている。大人の女の人だ。 その横に世理がいた。世理だけ制服なので、大人な二人と並ぶと少し幼く見えた。普段の世理は毅然としていて大人っぽいと思うのに、こうして見ると幼く見えるから不思議だ。 マルオのところからは三人が何を話しているのかはわからないけど、楽しそうな雰囲気が伝わってくる。世理とシンガーさんが喋っているのをピアニストさんが聞いてる感じだ。世理とシンガーさんは、時折触れそうなほど額と額を近づけたり、かと思うと大きな口を開けて笑ったりしている。 マルオは三人から目が離せなかった。だって、あんなに楽しそうに笑う世理を、今まで見たことがあっただろうか。
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