怒涛

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一言で言うなら、JIN&SHURIのステージは圧巻だった。 陣のピアノは朱里が歌っている時は伴奏として、ピアノソロでは存在感を示して聞く者を惹きつけた。朱里は朱里でノースリーブのタイトなロングドレスに身を包み、みんなを挑発するような挑戦的な表情で力強く歌い上げたかと思えば、次には聖母マリアかと思うほど慈愛に満ちた歌声を響かせ、更には色気たっぷりに誘惑してみせたりと変幻自在なパフォーマンスで観客を魅了した。歌声も見た目も存在感も、何もかもが揃った文句なしのスターだった。 マルオも店の片隅で耳をそばだてた。まだまだジャズ初心者のマルオにも、陣と朱里の実力が相当なものであることはうかがい知れた。観客も手拍子や拍手、指笛、口笛などあの手この手で盛り上げる。足でリズムを取る人や一緒に口ずさんでいる人もいて、みんな思い思いに楽しんでいた。それでいて一体感があった。 店の空気まで含めてJIN&SHURIの世界だった。思わずほぅっとため息が漏れる。いいライブだと思った。 ただ、マルオの心の中には消しきれないモヤモヤが燻っている。 そう、またモヤモヤしているのだ。 それは途中で、朱里が言うところの「オマケ」である世理が加わった時のこと。 世理のサックスの音が柔らかく響く。陣のピアノとも朱里の歌声とも絶妙に絡み合い、みんなうっとりと聞き入っていた。マルオも店の片隅で目を閉じて聞き入り、一人感動していた。 (先輩のサックスはやっぱりいいな) そしてサックスを吹く世理の姿を見ようと目を開けると… ステージでは朱里が世理の肩を抱き寄せ、頬にキスしそうなほどに顔を近づけて歌っていた。挙げ句、マイクを持っていない手を世理の頬に当て、自分の方を向かせた。そして目と目を合わせ、じっと見つめ合う。まるで世理を誘惑しているかのようだった。 その光景を目にした時、マルオの心にモヤモヤが沸き上がった。 そして、それは、ライブが終わった後もずっと居座り続けている。
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