過去

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一を言うと十以上返ってくる勝ち気な姉。姉は常にマシンガントークで、特に怒らせてしまうとそれは激しさを増す。 それと末っ子ゆえか甘えん坊でワガママで何かといえばすぐ泣く妹。(マルオはあれはウソ泣きだと思っているが) とにかく、そんな姉と妹に挟まれて育ったマルオは口数の少ない控え目な子どもだった。口は災いの元。触らぬ神に祟りなし。そんな諺がマルオの座右の銘になったほどだ。 そんな経緯で、物静かで自己主張もしない少年に成長したマルオだったが中学に進学した年の秋、一つ上の先輩から付き合ってほしいと言われた。マルオとしてはその先輩を好きでも嫌いでもなかった。そもそもその先輩のことをよく知らないし断ろうと思ったのだが、それでもいいからと押し切られ付き合うことになった。 異性と付き合うなんて初めてのことだし、マルオの身近にいる異性といえば姉と妹だったから、マルオはどう接したらいいのかわからなかった。自ずといつも以上に口数は少なくなる。先輩と一緒に下校しても会話は弾まない。それでもマルオは先輩のことを好きになろうと、彼女のいいところを探していた。 ところが付き合うようになってひと月くらいが過ぎた頃だっただろうか。 「郁実くん、想像してた感じと違った。顔はすごく好きなんだけど…全然喋ってくれないし、私といても楽しくなさそうだし、なんか、暗いんだね。私は明るい人がいいのに…ごめん、もう付き合うのはやめよう」 一方的に別れを切り出され、そのまま先輩はマルオの元から去って行った。
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