怒涛

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「先輩のサックス、やっぱりカッコいいです」 「さんきゅー」 「俺、久しぶりに先輩のサックス聞けてホントに嬉しかったです。俺、ジャズのことはまだよくわからないけど、朱里さんの歌も陣さんのピアノも凄くカッコよかったです。感動しました」 マルオは一旦言葉を止めてから小さな声で付け加えた。 「でも先輩が一番カッコよかったです」 「そっか、照れるなぁ。でも嬉しいよ、ありがとな」 世理とマルオがカウンターの端に移動して話しているところへ 「せーりー、いくみくーん、二人で何コソコソしてるのよー」 陽気な朱里の声が聞こえてきたかと思ったら、またもや二人の間に入り込み、さっきと同じように世理とマルオに腕を絡めてきた。 「もっとみんなの方にいらっしゃいよ」 朱里は二人をずんずんと引っ張っていく。 「お、朱里、両手に若いイケメンだな」 周りから冷やかすような声が飛ぶ。 「ふっふっふ、いいでしょう?」 そう言った朱里は右手をグイッと引いたかと思ったら、その勢いで朱里の方に一歩近づいた世理の頬に、今度こそ本当にキスをした。 その朱里の行動にビックリしてマルオは目を見開いた。と、同時にドクンと心臓が嫌な音を立てた。心の中のモヤモヤが大きく、どす黒くなった気がする。 何故だろうと思う間もなく、次の瞬間、マルオの右の頬に何かが押し付けられた。 ハッと見ると朱里がニッコリと微笑んでいた。 何が起こったのかわからず固まるマルオ。
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