怒涛

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「ちょっ! 朱里っ! 何してるんだよ!」 声を張り上げる世理に向かって朱里はのんびりと答える。 「え? 何って、キ・ス! 親愛の気持ちをこめたキスよ。世理ってばキスも知らないの?」 さらに「せっかく両手に若いイケメンなんだから、恩恵に預からないと勿体ないでしょ?」と、全く悪びれる様子もない。 「何とぼけた事言ってんだよ! 丸岡が驚いて固まってるだろ!」 世理はそう言うと腕を振りほどき、マルオの腕も朱里から引き剥がした。「おお、怖っ」と朱里が言うのが微かに聞こえた。 「丸岡、大丈夫か?」 「え……あ、あの、えっと……」 世理はマルオを連れてさっきまでいたカウンターの端まで移動した。 「丸岡、朱里がごめんな」 そう言いながら、タオルウォーマーから取り出した温かいおしぼりで頬っぺたを拭ってくれた。おしぼりに真っ赤な口紅が移った。 「ありがとうございます」 マルオが世理を見ると、世理の左頬にも赤いキスマークがついている。 「先輩も…」 マルオは世理の手からおしぼりを受け取り、中側の綺麗な面でそれを拭い取った。キスマークが残らないようにとグイグイ拭いていたら、世理にその手を掴まれた。不意のことにドキンとしながら「え?」と世理を見る。 「いてて、痛いよ、丸岡。もうちょっと優しくして」 と苦笑いしていた。 「あ、ごめんなさい! 力入れ過ぎました」 マルオは思わず俯き、何をそんなに必死になっているのかと自分自身にツッコミを入れた。何だか恥ずかしい。
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