過去

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だから、よく知らないからって俺は断ったのに。想像してたのと違うってなんだよ。どんな俺を思い描いてたんだよ。暗くて悪かったな。でも、これが俺なんだ。勝手な人物像を押し付けるなよ。と、口に出しては言えないマルオは心の中で一人憤慨するも状況は何も変わらない。 それでも先輩の押しの強さに抗い切れず、流されるように付き合っていたマルオは、悲しむこともなく別れを受け入れた。ただ、女性に対する不信感は増していった。 その後も告白されることはあったが、もう誰か特定の人と付き合うのは懲り懲りだと、何とか断り続けた。そしてマルオは疲弊していった。どこかに隠れるか逃げるかしたいと願った。実際には出来はしないけど。 そんな疲れ果てたマルオに転機が訪れる。中学二年の初夏、夕飯を食べながらテレビのバラエティ番組を見ていた時のことだった。画面に映ったタレントを見て姉が呆れた様子で言った。 「この人、たとえ本来は顔立ちが整っているんだとしてもスタイルがこれじゃあね。ないわあ。これじゃ百年の恋も冷めるって」 どういうことだ? と訝しく思いつつマルオが画面に目をやると、そこには丸々とした体形の男性タレントが頬っぺたをパンパンに膨らませて食リポをしている姿があった。なるほど、その人はよくよく見れば整った顔立ちをしていたが、その体形のためかイケメンという感じではない。愛嬌がある、という表現が似合いそうだ。思わずマルオは画面を凝視した。 (これだ!! ) マルオは閃いた。まさに天啓を得た思いだった。 それからのマルオはとにかく一生懸命に食べた。一日5食。さらに間食。家族は呆れながらも成長期だからだろうと静観していたから、マルオは食べて食べて食べまくった。それは、本来はあまり大食漢ではないマルオにとってはとてつもない苦行のようだったが、とにかく必死で食べ続けた。その甲斐あってマルオは三年になる頃には目指した体型になっていた。そのおかげか、もうマルオに告白してくる子はいなかった。 マルオはようやく平穏な日々を手に入れた。
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