#001 プロローグ

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* 今年もまた……空が鳴る日がやって来るねぇ。 ひばあちゃん。そらがなるって、なに? そうか。ナルは知らんわねぇ。……空が鳴るっていうんは、おじいちゃんとおばあちゃんのお話から作られた造語。言葉ながよ。 おじいちゃんとおばあちゃんの、おはなし? そうそう。ほら……よさこい祭りで、鳴子をこうガラガラ鳴らして皆で踊るろう?ほんで空を眺めて、鳴子の音をおじいちゃんと2人並んでじっと聞きよったらね。 鳴子の音が合わさって、空まで響くばぁ大きな音や。まるで空が鳴りゆうみたいやにゃあ……でも、おんなじ大きな音でも、これはあの怖ぁてたまらざった感情のない爆音やない。 この音らぁには、感情がある。 楽しむ気持ちや慈しむ気持ち、そこに息づく人らぁのはっきりした意志や願いが込められちゅう。 幸せな時代になったんやにゃあ……この音は幸せな音ながぞってねぇ。おじいちゃんがそう言うて笑うがよ。 おばあちゃんもおじいちゃんの話を聞いてね、本当にそうやなって思うたが。 やき、どうかこのままずっと、孫のそのまた孫の代も、同じように幸せな時が過ごせますようにって。 毎年、鳴子の音を聞きながら、高知の空をゆっくりと眺めれますようにって願いを込めてね。 おじいちゃんと2人、よさこい祭りの音を聞きながら空を見上げて……今年も無事に、空が自由に鳴る日がやってきたねって話すがよ。 ……あぁ、そうや。ナルとソラ。あんたらの名前は、おばあちゃんのこの話を聞いて、あんたらのお母さんがそうしようってつけてくれたがで。 自分らの想いが……平和を願う気持ちが、また次の世代へ受け継がれてく……大切なことや。 人であるなら、忘れたらいかんことながよ……  縁側に、幼なじみのソラと並んで座って聞いた、曾祖母との遠い日の優しい記憶。それは、大切な宝箱にしまっているかのように、いつもこの胸の中にある。 難しいことはよく分からなかったけれど、亡くなった曾祖父の話をする時の曾祖母は、とても幸せそうだった。  今思えばそれも、わたし達がよさこいにハマるきっかけの1つだったのかもしれない。 わたしもソラも、空の音を作ってみたいと、鳴らしてみたいと思ったのだ。  曾祖父と曾祖母が幸せな音だとする、その鳴子を鳴らす一員になりたいとーー。
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