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「いや、親子そろってそんなに俺を責めると……ふへっ……恥ずかしくなるなぁ」
「うん、ご協力ありがとう。これ、警察やあなたの会社にばらまいたらどうなるかな?」
母親はスマホ画面を見せていた。そこには録音機能が停止されていた。どうやら、先ほどの会話をきっちり撮っていたらしい。彼は「やめてくれ」と連呼していた。結局、あの後、母親はばらまくことはしなかった。それもそのはずだろう。迷惑になるのだから。
私は長い階段を上りながら、あの頃はこけそうになったのを父親が手を握ってくれたことを思い出して急に右手がさみしく感じた。目の奥に熱い何かが込み上げてくる。そういえばあの時、これから貰えるお年玉のことしか頭になくて「お年玉の金額が増えますように」と祈っていたなぁ。中学生の女の子だった私は女子ってこんなにもお金を使用しなくちゃならない生き物だって実感したときだったからなぁ。でも今は違う。
神殿の前にある神社にご縁があるようにと銀色の五十円玉をそこに入れ込む。そしてそのまま神社の作法を速やかに行った。そして静かに目を閉じて手を合わせる。そして祈る。
「神様。どうか父親を助けてあげてください」
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