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「潤んで甘く誘うような瞳に、とろんと綻ぶような笑みを浮かべている。実に美味しそうで困る」
言われ、オリヴァーは目を丸くして自分の頬を軽くパンと打った。気合いが入るおまじないで、仕事の前には少しする。痛みを感じるほど強くはなく、気を引き締める程度だ。
「そんな事をしなくてもいいのに。実に美味しそうで困る程度だ」
「美味しそうに見えてしまう事がいけないのです。今日はそのような関係にまで踏み込まないと決めてきたのです。ですから、もう少し…せめてキスまでにしたいのです」
ほんの少し怖いのだと思う。アレックスの事が気に入ってしまったから、体を繋げて興味を失ったらと思うと怖い。そうならない保証なんてない。
元来気分屋な部分がある。今日は良くても明日は気に入らない、そんな部分があると自覚している。
アレックスは苦笑し、手を取って甲に恭しく口づける。そして、にっこりと笑った。
「求める気持ちがないと言えば嘘になるが、俺もそこまで深くはまだ求めない。だから、安心してくれ」
「アレックス殿…」
「まずは、和菓子というのを食べに行こう。そろそろお腹も空いてきただろう」
本日の目的はそこだ。甘味と聞くと途端に腹の中が動いて消化されていく気がする。オリヴァーはにっこりと笑みを浮かべ、頷いて隣を歩く。
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