オリヴァーの趣味

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「苦労しております。私は心から震えるようなお相手を求め、そうした方の手で高められる事を望んでいる。なのに私の特殊性は、なかなか受け入れられません。独り寝の夜が長く、肌を合わせる事すら忘れてしまいそうなのです」  誘い込んでいる。今日の相手としてアレックスは及第点だ。だからこそ期待を持ってしまう。触れてくれないか、そんな気分だ。  だがアレックスは苦笑して首を横に振る。期待があった分だけ、落胆が大きい。肩を落として項垂れていると、不意に近づいてくる気配を感じた。 「顔を上げてくれないか、オリヴァー殿。拒絶したのではないんだ」  おずおずと顔を上げると、彼もまた仮面を外していた。  黒い髪は光の加減で濃紺に輝き、深い青い瞳は深海を思わせる。顔立ちもよく、端正な青年だ。 「初めて知り合い、数分後には抱き合うのではあまりに軽率に思えてしまった。できればもう少し、オリヴァー殿の事が知りたい。そして、俺の事を知ってもらいたい。これ一回で手放すには、貴方は勿体ないから。絡め取る時間を頂きたいのだよ」  少し低い声が言いつのり、どこか色を感じる瞳が見つめる。  僅かに心が動くように思う。そう感じたからこそ、オリヴァーはニッコリと微笑み、男の手を取った。 「そういう事でしたら、お付き合いをいたします。手始めにここを抜け出して、お酒など飲みながら話しませんか?」 「喜んで」  取った手の甲に口づけて、男は微笑む。     
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