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くすり指
左手の薬指に小さなダイヤモンドを輝かせおにぎりを握る。フライパンでソーセージを炒め、卵焼きを作り、弁当箱に盛り付ける。いつになく爽やかな朝だ。
リビングに現れた寝起きの夫がキッチンで微笑む私を見つける。
「無くしていた指輪が見つかったの。はい、これ朝食」
炊飯器のなかの熱々のご飯をしゃもじですくいおにぎりを一つ追加して、目の前の皿にのせた。
「どう?」
仏頂面の夫は味覚の問いに、上手いも不味いも言わない。
「いってらっしゃい」
玄関で鞄を持たせ無言の夫を送り出す。
私は笑顔を絶やさず、掃除も洗濯も手を抜かない。全ての家事を完璧にこなしリビングのソファーに腰掛けた。
エプロンのお腹からスマホを取り出しインターネットに繋ぐ。画面に映し出される人妻倶楽部の文字。そこへ私のIDを打ち込む。
「一件だけか」
呟き化粧ケースから香水を取り出す。一瓶数万の香水がお客からの贈り物だと言うことを夫は知らない。私はその香水を指に取ると耳の裏を軽く押さへ、仕事場へ向かった。
私はホテルのベッドに中年男と並んで座り身を寄せ合った。二人とも身にまとうものはバスタオルだけだった。
「あなたはどっちのタイプ?」
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