くすり指

2/4
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 左手の指輪をわざとらしく天に掲げ客に媚びる。中年男は荒いキスをするとベッドに押し倒し私の指輪を奪った。 「主婦なんてつまらないだろ。俺が女を思い出させてやるよ」  そのまま身を守る最後の一枚の布を剥がれ乱暴な時を過ごす。数時間の情事ののち駅前で男と別れた。 「また指名頂戴ね」  客が見えなくなると左手に指輪をはめ直し二ヶ月前のことを思い出す。 「疲れているんだ」  その一言で夫婦の営みは一年以上なかった。結婚して四年、子供に恵まれない夫婦と言うのはこういうものなのだろうか。  一回りも年の離れた夫との結婚を後悔し始めていた私は、洗い物の手をとめ些細な嘘をついた。 「私、指輪を無くしたみたいなの」 「もっとよく探してみろ」  夫は無表情で朝食のトーストを食べていた。  蛇口から水が流れ、洗い桶から溢れ出る。私はそっと薬指に手を添えた。  そんな時だった。学生時代の友人、美香から電話があった。私は不満を吐き出すため誘いにのりカフェに出向いた。  黙って愚痴を聞いてくれていた美香が、猫のように目を細め話を切り出す。 「私、新しく会社を作ったんだけど、うちでアルバイトをしてみない」 「会社ってなんの会社よ?」 「人妻売春、今、流行っているのよ」     
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!