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…どうした?
そっと腕を緩めて首を上げ彼女の顔を見ようとするが、
彼女の顔は私の胸にうずめられ表情を見ることはできなかった。
それならとすっと目線を横にずらし耳を見てみるが
いつもと変わらぬ色白の小さな耳があるだけだった。
彼女の場合恥ずかしくなるとすぐに耳が赤くなるくせが
あるのだが今回はそんなこともない。
何かあったのだろうか…
なんとなく聞いてはいけないような気がして
静かにまた首を降ろしぎゅっと抱く。
少しの間そうしていただろうか。不意に彼女が声をかけてきた。
「陽一…」
「ん?どうした」
「…いやなんでもない…そろそろ帰ろうもう日が完全に落ちる」
どこか含みのある言葉を残し彼女は私の体から離れた。
つい数秒前まで心地よい温かさを出していた胸元に
さっと冷たい空気が流れる。
その瞬間突然彼女が消え失せてしまったような
何とも言えない空虚感が心を支配した。
私もゆっくりと体を起こし着物に付いた汚れをはたく。
その時一緒に着物をはたいてくれていた彼女は
まるで先ほどのことがなかったかのようにいつも通りの調子であった。
あれから家に戻り食事も終え、
眠ろうと横になってはみたものの
どうも今日の彼女の様子が気になって寝付けずにいた。
言いかけた言葉の先。
本音を言うならその先の言葉が想像できないわけではない。
だがそれは考えたくない言葉だった。
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