モナリザの時計

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 なぜ僕はこんなことをしたのだろうか。僕はルーブルの学芸員の仕事に飽きていた。ましてや絵画の修復師になんてなりたくもなかった。僕がなりたいのは芸術家なのだ。  例えばイタリア人がレオナルド・ダ・ヴィンチを生み出したように、我らフランス人はモーリス・ルブランを生み出したのだから。  僕は怪盗ルパンの生まれ変わりだ。この奪ったモナリザを手始めに世界を笑う芸術家になって見せる。 「どちらまで?」 「凱旋門まで」  運転手の問いに答えた。  タクシーは音を立てルーブルを離れて行く。  僕は車の窓を開けると、手のなかで丸まった紙の時計を、軽やかに外へ投げ捨てた。  今はただ様式美に染まりたい気分だった。
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