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モナリザの時計
アフロディーテ、通称ミロのヴィーナス。艶かしい腰つきの大理石の彫像。サモトラケのニケ、ギリシャ神話にも登場する翼を大きく広げた勝利の名を持つ女神像。
そして、世界に冠たる名画モナリザこと、リザ・ゲラルディーニの肖像。
ルーブルの誇る美しき三大貴婦人。学芸員の休日は、修学と眼福にあずかるために使われることこそがふさわしい。
例年であればこの素晴らしきモナリザの絵画は防犯上の理由で二重の柵と、無機質なガラスの向こうに飾られていた。
だが今年は違う。あの忌まわしき事件から一世紀、返還百周年と銘打たれた企画のおかげで、目障りなガラスは取り外されていた。
僕は観光客に混じり簡易の柵の外から名画を見つめた。少年のような視線の意味が彼女には伝わっているだろうか。
不意に明かりが落ち部屋が真っ暗になった。その間、実に十秒足らず。観光客がザワつき、また部屋の明かりがつく。
僕はすぐさま異変に気づいた。
「すり替えだ!」
壁に掛けられていたモナリザの絵が別の絵に変わっていた。良く言えば現代アート。悪く言えば悪趣味。モナリザが絵の中で右手に高そうな時計をしているではないか。
観光客が次々に声をあげる。
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