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死神の名刺
「決定を伝えることが私の仕事ですから」
応接室の革張りのソファーの上で腰を抜かす営業部長を尻目に部屋を出る。
他人の首を飛ばすことに痛みを感じることはなかった。それが仕事であり業務を遂行する度に懐が温まるからだ。
俺は行きつけのバーのカウンター席に座ると、ウィスキーを注文した。頭のなかで通帳の残高を思い浮かべながら今度の長期休暇には南の島へでも遊びに行こうかと考えていた。
なんの真似だろう。俺の前に注文をしていないピーナツの皿が差し出される。
「ご挨拶までに、お一ついかがですか?」
隣に座った男が豆をほうばりながら中折れ帽を持ち上げると上着のポケットから名刺を取り出してきた。
その紙切れには挑発的にこう書いてあった。
『地獄商会 名誉暗殺請負人 死神六号 電話番号 ×××‐×××‐×××』とある。
死神。リストラの宣告で飯を食う俺への会社での陰口と同じじゃないか。
「脛に傷がおありでしょう。私はお客様の恨みを晴らすためにここへ馳せ参じたわけです」
「殺しのプレゼントか。依頼人は誰だい」
「守秘義務を理解できてこその死神業で御座いますから」
自称死神の言葉を聞きながら思わず吹き出してしまった。
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