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【12】目の前の別世界
カギヤは先程までアザミと話していたスマホを再び手に取ると、電話番号を押しかけた指を途中で止めてマリネを見た。
「マリネちゃん。僕が通話中に一言でもしゃべったら、今後の料理にピーマンたくさん使うからね?黙っててね?」
「ん~ボクの方が先輩なのに、そうやっていじめるス。しょうがねっス。分かったス」
ぷぅと頬を膨らませ一層丸い顔になった不本意そうなマリネの横で「ピーマンを焼くと香ばしくて美味しいんだけどなぁ」と思いながら、カギヤは電話番号を入力した。
「……あ、優羽君?梶矢です。夜分にごめんね」
「梶矢さん!こんばんは!」
優羽の声から以前の明るさが感じられたので、カギヤは心からほっとした。
しばらく言葉を交わした後、優羽が自分の近況をカギヤに告げた。
「僕、母さんを信じているという気持ちも込めて、また明日からキーホールでお世話になることにしました。篠原さんがバイトを辞めてしまってちょうど人手が欲しかったとママも快諾してくれて」
「そうなんだぁ!ママも喜んだだろうなぁ。でも、篠原君やめちゃったの?随分と長くあのお店でバイトしてたんだよね?」
「篠原さんが出演した舞台を観た有名な劇団のスカウトから声をかけられたとかで、役者として生きていく決意が固まったそうです」
「そっか、それはすごいなぁ。皆それぞれ夢に向かって頑張っているんだね」
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