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長年この店でアルバイトをしていた篠原が辞めた代わりらしき、初めて見る顔もある。
ママと優羽に歓迎されながら、いつものカウンター席に座ったカギヤは、新しい自転車の鍵を優羽に渡して、管理人の言葉を伝えた。
「悪質な破損行為が原因だったよ。でも管理人さんも今まで以上に気を付けてくれるだろうから、こんなことはもうないと思う。気にしない方がいいよ」
カギヤが穏やかな声でそう言うと、優羽も安心したようだった。
「そうでしたか……駐輪場の管理人さんに菓子折りでも持って、お礼を言っておきます。たくさんお世話になった梶矢さんにも、何かお礼を……」
「……え!いや、僕は何も!優羽君がこうしてまたキーホールに復帰している姿が見られただけでも充分だから!」
「そんなわけには……。梶矢さん……あの……」
「え?」
カギヤが優羽の言葉に顔を向けると、安心して喜んでいるというよりも、大きな瞳に濡れたような切ない光を宿している。
胸が締め付けられるような純粋な表情で見つめられて、カギヤはドキリとした。
「あの……いえ、心ばかりですが、お礼はさせてくださいね」
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