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一息入れていた主婦や営業職と思われる男性、学校帰りの学生たちなどが徐々に帰り支度を始め、店内の客が一旦減る時間帯になりつつある。
そのタイミングで一番バイト歴の長い篠原が、キーホールの自慢である年代物のシャンデリアの灯りを点けた。
すると店内はさらに洒落た雰囲気になり「わぁ綺麗!次は夜に来ようね!写真撮りたい!」と、会計を済ませた学生たちがはしゃいでいる。
それを見ていたカギヤが、感心したように篠原に言った。
「いいタイミングの点灯だね!今度は夜の時間帯に、さっきのお客さんたちがまた来てくれるだろうし」
「ありがとうございます!タイミング狙ってました」
と、爽やかに篠原が笑う。
しばらくして木製のドアに付けられたベルが、カラカランと明るく心地良い音を響かせた。
「ただいま戻りました。あ、梶矢さん!」
「やぁ、優羽君、久しぶり!」
細身で女性にも間違えられそうな可愛らしい青年、優羽はこの店の従業員だ。
高校卒業後、専門学校で二年間カフェの経営や技術を学び、現在は22歳なのだとカギヤは以前聞いたことがある。
柔らかな栗色の髪の似合う癒しの笑顔を目当てに来るファンも多く、彼がいるだけで店内が明るく感じられた。
優羽が店内へ入ると、スーツ姿の中年の小柄な女性がお辞儀をして続いた。
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