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「そういうSじゃなくて!あ、ごめん。マリネちゃんは元々警察官じゃなかったね。エスって言うのは警察用語で内通者、スパイのことだよ」
あまりに悪びれた様子のないマリネの態度に困ったような笑顔になったカギヤは、いつも通りの穏やかな口調へと戻っていた。
マリネは「96」に入る前、犯罪を助長する道具を発明して販売しており「その技術力を活かせば毒をもって毒を制することができるのでは」と判断した地味な上官、片岡警視長にスカウトされたのである。
「ん~スパイなんて人聞きが悪いス。班長はカギヤさんのことを心配してるんス。だから楽して生活したい願望を持っているボクに『しばらくカギヤの近くにいてやってくれ』って頼んだスよ」
「班長が僕の勘を信じてくれた上に、心配までしてくれてたなんて……っていうか、マリネちゃんは楽して生活したかっただけじゃないか!」
「ボクの需要と班長の供給が一致しただけスよ。カギヤさんが最初から優羽くんに惚れてるのがバレバレだったんで、色恋沙汰に縁のない中年鍵オタクが冷静な判断ができなくなったら、才色兼備のオメェがフォローしてやれって」
「班長の台詞をかなり脚色したでしょ!君が言うといちいち棘があるからすぐ分かるよ!」
「美しい薔薇には棘があるもんスよ」
カギヤは大きくため息を吐いた。元・捜査二課とはいえ、口達者なマリネにはかなわない。
「班長の気持ちは嬉しいけど、僕だったら大丈夫だから。マリネちゃんも自分の時間があった方が良いと思うし、もう帰っていいよ?」
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