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「そう言っていただけると……ありがとうございます。生活は楽ではありませんでしたが、優羽には人様のご迷惑にならないように、どこに出ても恥をかかせないようにと育ててきたつもりです」
「優羽君の淹れるコーヒーが美味しいのはもちろん、接客や店内の雰囲気も大切にしているのが伝わってくるんです。だから居心地が良くて、またお店に来たくなっちゃうんですよ」
「そうですか!良かった。今ではキーホールさんで修行させていただいた後、いつか自分でお店を持ちたいという夢を持っているようなんですよ」
そういうと、綾子は息子の働いている姿を嬉しそうに眺めながら言葉を続けた。
「親としては、お店を出すための資金援助をしてあげたいのですが、それができないのが本当に残念で……」
そんな綾子の言葉を聞いて、カギヤが穏やかに言った。
「お母さんは一生懸命頑張って、カフェの技術や知識を精一杯学べる環境を自分に作ってくれたんだって、優羽君に聞いたことがあります」
「え?あの子が、そんなことを?」
「それに、学生時代、アルバイトを三つしようと思っていたのに『二つにして、その分、勉強の時間に充てなさい』って言ってくれたって。仕事でお疲れでしょうに、優羽君の勉強にも付き合ってあげているんですよね?」
「私が長年経理の仕事をしていて、数字関係だけは息子に教えられますので」
「お金だけじゃない。知識や技術、それにお母さんが応援してくれる姿だって、優羽君の将来の支えとなる立派な財産です。充分じゃないですか」
綾子がカギヤに向かって微笑んだ。
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