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うっかりどこに自転車を止めたのかを忘れてしまって探し回るはめにならないように、利用者は大体いつも同じ場所に自転車を預けることが多い。
優羽も二階に上って三列目の中央と決めており、そこが塞がってしまっている時は、その近辺に預けるようにしていた。
優羽は、男性、女性に関わらず、相手の心や人間性に魅かれて恋をするタイプだった。
そして、気になる相手ができても、その相手に好きな人がいると分かった時点でそれ以上好きになることはなかった。
学生時代、好きな相手から告白されたが、以前から友人もその子を好きだということに気付いていたので義理立てし、結局付き合わずに終わったこともある。
だからあのように篠原に言ったのだが、時々「梶矢さんに指輪がなかったらいいのに」と、ふと自分らしからぬことを考えているのは確かだった。
しかし、優羽が自分の想いを伝えることによって、困ったカギヤが二度とキーホールに来なくなってしまう方が怖かった。
「本当の気持ちは僕の心だけに大切にしまっておかなきゃ」と、自分に言い聞かせる。
梶矢さんのような、一緒にいてほっとする恋人を、僕もいつか見つけられたらいいな……。
そんなことを考えながら歩いていた優羽は、自分が自転車を預けていた場所をとっくに通り過ぎてしまっていたことに気付き、慌てて引き返したのであった。
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