【00】プロローグ

2/8
前へ
/272ページ
次へ
「96(キューロク)」とは、警察組織が非公式に作りあげた違法行為も含めて手段を選ばずに警察に協力する、非合法チームの名称だ。  ここは、郊外に建てられた高級マンションの五階に位置する「96・アザミ班」班長、アザミの自宅である。  誰にでも住める価格ではないが、その分、都心に出やすい立地の良さに加えてセキュリティに特化した造りとなっており、充分な付加価値を備えていた。  広さは2LDK。壁がたっぷりとした収納スペースになっているので、タンスは置いていない。  大きなベッドルームにはワイドキングサイズのベッドとサイドテーブル、もう一つの洋室にはルームランナーなどを置き、簡易ジムとして時折使用している。  今まで住処(すみか)に安全性以外の執着は特になかったため、洒落(しゃれ)たカウンターキッチンもある広々としたフローリングのリビング・ダイニングは、シンプルというより殺風景であった。  しかし、ヒドウと過ごす時間のためにと枕や歯ブラシなどアイテムが数点増やされただけで、アザミはこの部屋に生活の温かみや心地良さを感じ始めていた。  ちなみにこの場所を知っているのは、組織の人間の中でもヒドウだけである。 「ちぇっ、なんだよ。一ヶ月も会えねぇのに全然平気そうだな?あぁ、もうおっさんの体には飽きちまったってぇのか?俺、適当な奴をホテルに誘っちまおっかなぁ」  ヒドウの冷静な態度が面白くなかったアザミは、わざとふてくされてみせる。
/272ページ

最初のコメントを投稿しよう!

733人が本棚に入れています
本棚に追加