それはまるで

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   *  何度も冬を繰り返し、私は結婚した。  平均よりもちょっと低い年収の、やや髪の薄いサラリーマン。でも私は彼が好きになった。だからいいのだ。幸せになるのに、馬鹿なプライドはいらないと高校生の頃教わったのだから。 「透くん!」  既にケーキ屋さんの入り口に到着していた透くんは、また一年分老けていた。もちろん、私も同じなのだが。  私が近寄ると、透くんは「あけましておめでとう」の言葉も忘れ、私が抱く赤ちゃんに釘付けになった。 「わあ、かわいい! 似てる!」 「はあい、可帆ちゃんでえす。よろしくねえ」  私は自慢げに言った。透くんが我が子のように私の子供を見つめる視線は、なんだか昔、透くんが三人の兄弟を見つめていた視線と同じように感じた。  
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