それはまるで

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   カラスがカア、と鳴いた。  透くんの手が伸びる。そしてその手が巾着袋を受け取ろうとした瞬間、私は思わずそれを引っ込めた。 「……今年、はじめての、ケーキ……食べたい人!」  私は咄嗟に、透くん以外の三人に声を掛けた。  先程ママのご飯をたくさん食べた三人だったが、はあい、はあいと元気に手を上げる。透くんは呆気にとられたような顔をして私の顔を見返していた。私は一言「ごめん」と言うと、遠くに見える駅前のお店を指差した。 「ねえ、私奢るからケーキ食べていかない? あそこの店オススメなの。今日から営業開始してるみたいだから」  私たちは、駅前のケーキ屋さんに入った。  一月四日、夕暮れのイートインにはもちろん客は少ない。ボックス席をふたつ陣取り、早苗ちゃん、太一くん、美保ちゃんにはその片方の席でケーキを食べてもらった。 「ごめんね、いきなり」  私は透くんと向かい合い、先程渡さなかった巾着袋を差し出した。  透くんがそれを受け取り、中身を出す。  そこには計六枚の私のお年玉があった。 「今年は、しめて……三万三千円なり!」 「……ありがとう。本当に」  毎年この瞬間、透くんは得もいえぬ顔をする。私はそれを複雑な気持ちで見つめた。  お年玉を私にくれた大人たちは、こんなことをしてがっかりするだろうか。  だけれど、ごめんなさい。  私にはこれが最善に感じている。 「……もうすぐお年玉なんてもらえなくなる歳になるから悲しいけど。一人っ子は単価高くていいよ」  六個のポチ袋を見つめ続ける透くんに、私はどう声をかけたらいいのか分からず呟いた。  
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