それはまるで

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   そのまま、透くんは無言でポチ袋を鞄にしまった。そして巾着袋を折り畳んでそっと返してくる。それごと渡したつもりだったが、私はそれを受け取った。 「あのね、私ちょっと聞きたいことがあったんだ」  巾着袋を鞄にしまいながら言った。透くんは、アイスティーをつるつると飲みながら答える。 「何?」 「私のお年玉。毎年どんなことに使ってるの?」  そう言うと、ううん、とひとしきり透くんは悩んだ。 「……そうだな。生活費に。……なんて、味気ないね。嘘だよ。例えばこれ」  透くんは鞄から数学の参考書を取り出した。  それは、私が持っているものと同じものだった。頭のいい透くんと同じ参考書を使っていると知り、なんとなく嬉しくなった。 「僕、数学苦手で少し行き詰まってたから、どうしても欲しくてさ。他にはね、例えば……早苗には誕生日プレゼントのハンカチ、太一には学校で無くしちゃった上履き、美保には学校で流行ってるっていうキャラクター消しゴムとか。このお金はいつも押入れに隠しておいてさ、毎年一年間、臨時用として大切に使わせてもらってる。本当にありがとう」 「そうなんだ。……ていうかさあ、なんでこんな日にまで参考書持ち歩いてんの。ガリ勉」 「電車の中で時間があくでしょ」  ママから聞いている。彼は私と同じ花の高校生だけれど、バイト漬けで平日も休日もろくに時間が無いことを。  毎年見送りの帰り、そっと駅のホームを覗くと、透くんが電車を待つ時間を利用して勉強しているのも知っている。  
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