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:魔王、異界に駆け込む:
かつては黒さを誇った城が、眩いばかりの「白」に塗り替えられていく。
城を覆っていた刺々しい茨は半分に減らされ、その代わりに目にも鮮やかな緑の蔦が壁面をはっている。
尖塔のそこかしこに「白いモノ」がいる。我が物顔で歩き回り、飛び回る。
これまで、この城にいる「白いモノ」は捕虜か使者であったため、しずしずと、あるいは項垂れていたものだ。
それがこのざまである。
「ああ、嫌でも思い知らされるな。自分たちは、負けたのだ、と……」
黒いローブを纏った若い男が大きな岩の上でつぶやき、背後に控えた数人の男が、
「ううっ」
「おかわいそうな、若!」
と、一斉に嗚咽を漏らした。
「皆、泣くな……泣いてはならぬ。今は、堪える時ぞ!」
唇を噛んで拳を握った彼のくりくりとした二重の眼は、深い深い悲しみを湛えている――。
ように見える。
が、騙されてはならない。見えるだけ、である。
というのも、当代魔王、逼迫気味である国の財政を助けるためにひそかに人界で「実力派俳優」として大金を稼いでいる。
つまり、役者なのである。純真な悪魔たちを唆し――いや、その気にさせることなど、朝飯前である。
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