:魔王、異界に駆け込む:

1/15
前へ
/19ページ
次へ

:魔王、異界に駆け込む:

 かつては黒さを誇った城が、眩いばかりの「白」に塗り替えられていく。  城を覆っていた刺々しい茨は半分に減らされ、その代わりに目にも鮮やかな緑の蔦が壁面をはっている。  尖塔のそこかしこに「白いモノ」がいる。我が物顔で歩き回り、飛び回る。  これまで、この城にいる「白いモノ」は捕虜か使者であったため、しずしずと、あるいは項垂れていたものだ。  それがこのざまである。 「ああ、嫌でも思い知らされるな。自分たちは、負けたのだ、と……」  黒いローブを纏った若い男が大きな岩の上でつぶやき、背後に控えた数人の男が、 「ううっ」 「おかわいそうな、若!」  と、一斉に嗚咽を漏らした。 「皆、泣くな……泣いてはならぬ。今は、堪える時ぞ!」  唇を噛んで拳を握った彼のくりくりとした二重の眼は、深い深い悲しみを湛えている――。  ように見える。  が、騙されてはならない。見えるだけ、である。  というのも、当代魔王、逼迫気味である国の財政を助けるためにひそかに人界で「実力派俳優」として大金を稼いでいる。  つまり、役者なのである。純真な悪魔たちを唆し――いや、その気にさせることなど、朝飯前である。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加