:魔王、異界に駆け込む:

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 魔王は、その紙を裏返したり二枚目を探したりした。が、その一言で、おしまいだった。 「だからっ……! 俺は、天使らしく悪魔らしくというのが人間基準なのが気に入らぬ!」 「それは――私見ではございますが、その方がわかりやすいからにございましょう」 「……は!?」 「ですから、悪魔族が思い描く理想の悪魔ですとか本来の悪魔の姿は筆舌に尽くしがたく、人間たちが想像することすらできません。いえ、想像することは不可能でしょう。天使にしても同様です。もっとも下等な人間たちが想像する精一杯の姿に、天使さま悪魔さまが合わせてくださる――わたくしは、そう理解しております」  受付の人間は穏やかに語りながらにっこり笑う。その言葉に合わせて、いつの間にそばに来ていたのか、例のムチムチの女性も腰を折る。その拍子にブラウスの襟元から胸がこぼれそうになり、思わず魔王が覗き込んだ。 「柔らかそうな乳だ……いや、失礼。結局己の生きざまに、不満たらたらで生きなければならないのか……」  魔王は、嘆いた。配下も、嘆いた。  嘆きつつ、魔界へと戻った。  己が住み暮らす城はもう魔界にはないのだが、もはや習性なので致し方ない。     
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