:プロローグ:

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 条文を無視して人界を消そうと頑張った天使も悪魔も、少なくない。  しかし絶対に消すことはできなかった。何かが人界を守るのだ。今日に至るまで、人類はしぶとく逞しく生き続けている。  そして、条文に盾突いた天使や悪魔に罰が下されることもない。その理由も不明である。    意外に思う人々が多いのだが「天国」と呼ばれる場所は存在していない。人類が勝手に異界と天界をごっちゃにして「天国」と呼んでいるに過ぎない。  そして人界の下には「地獄」がある。  地獄なるものは本来存在しない。だが、人界に暮らすものどもが、 「己が最下層であるはずがない! 有り得んだろう!」  と喚き散らして大合唱したため、辟易した天界が、人類が満足しそうな「いかにもな地獄」を生み出して設置してやった。  かつては本当に恐ろし気な生き物が暮らしていたらしいのだが、今では経費削減のため彼らは天界に回収され、「地獄」と書かれた看板が立っていて無機質な地面があるのみとなっている。  人類が地獄を欲した場合や、人類に地獄が必要だと異界や天界が判断した場合には、大道具や小道具や舞台装置が運び込まれ、天使や悪魔が人を脅かすべく奮闘する手はずになっている。  もちろんすべて、『この本』の指示に従って行われるのである。     
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